前立腺癌の骨転移やPSA値:早期発見を目指して

血液成分中のPSA値は前立腺がん(前立腺癌)に対して重要な指標です。また、前立腺癌の骨転移の診断には先のPSA値以外の指標も重要であり、早期発見により適切な治療法が求められます。この記事では、どのような癌なのかを解説し、骨転移や治療薬、その治療法、また検査方法について解説します。

前立腺がん(前立腺癌)に対するPSA値と治療薬

前立腺とは、男性のみ存在する臓器で膀胱の近くにあります。このように、男性にしかない前立腺ですが、その癌発症率は非常に高いとされています。

Hyuna Sungらにより、前立腺癌は、185ヶ国における男性がんの罹患者数1位、死亡率第5位であることが2021年に発表されています。このことから、前立腺癌に対する治療戦略は、未だ発展途上だと言えるでしょう。

古くでは、触診などで最初の判断をしていた前立腺癌ですが、現代では血液検査により判断することができるようになりました。前立腺癌のバイオマーカー(血液検査などにおいてタンパク質を測定し、がんなどを判断するものです)として、Prostate Specific Antigen(PSA)があります。

このPSAは、前立腺癌になると血液の中で多くなることが多いとされるため、血液検査で早期に分かるようになるということです。

このようにPSA値により発覚した前立腺癌は、その値が高値の場合、外科手術などで取り除くことを試みることがあります。また、術後、放射線による治療法や抗がん剤などを利用した化学治療法も併用されることがあります。

先述のように、前立腺癌では、PSA値が高くなります。このPSAは、Androgen Receptor(AR、男性ホルモン受容体:男性ホルモンに反応するタンパク質)が活性化されることで増加するとされています。

また、ARが多くなったり、強く活性化することで、前立腺癌が悪化するとされています。このような経緯により、ARと男性ホルモンの関係に対する阻害剤が治療に使われることがあります。

前立腺癌に対して、ARと男性ホルモンが結合することで病状が悪化することから、フルタミドやビカルタミド、エンザルタミドやアパルタミド、最近ではダロルタミドなどを阻害剤として活用します。

ARは、タンパク質として色々な形に変化したり、タンパク質を構成しているアミノ酸が一般的なARのアミノ酸と入れ替わることで、男性ホルモン以外の物質により強く活性化することがあります。

フルタミドやビカルタミドは、前立腺癌治療薬としては、第一世代とされています。これらの治療薬は、ARと男性ホルモンの結合をブロックする役割があると考えられていますが、ARを比較して弱く活性化することも知られています。

このような化合物(治療薬を含みます)を、パーシャルアゴニスト(部分的アゴニスト, 部分的な活性物質)と呼ぶこともあります。

フルタミドやビカルタミドは、パーシャルアゴニストであることから、男性ホルモンと比較してARの活性化、つまりは前立腺癌のリスクや悪化を弱くすることはできますが、やはりよりARが活性化しない方がよろしいでしょう。

このような背景から、研究者たちは大学機関などで、さまざまな薬の開発に取り組んでいます。

ここで、第二世代の治療薬と呼ばれる化合物が報告されました。これが、エンザルタミドやアパルタミドです。

人間の細胞では、大きな細胞の膜があり、その中に小さな核と呼ばれる空間があります。ARは、基本的には細胞膜の中、そして核の外にあるとされており、この状態では活性化されることはないと考えている研究者が多いと感じています。

このARが男性ホルモンと結合することで、核内へ移動し、その機能を発揮するというのです。フルタミドとビカルタミドはARと男性ホルモンの結合を阻止して、ARの活性化すなわち前立腺癌の悪化を防ぎますが、ARを核の中に移動させるのか、または核の中に留めておく作用やARの活性化を促す作用もあると言われています。

このような背景から、フルタミドやビカルタミドは先述の第一世代、加えてパーシャルアゴニストと呼ばれています。

第二世代のエンザルタミドは、最初の報告で有名な科学ジャーナルScienceで紹介されました。アパルタミドは、その後継として報告、そして上市しました。

エンザルタミドはフルタミドやビカルタミドとは異なり、ARを核内に移動させないとされており、ARの活性化をフルタミドやビカルタミドなど前立腺癌治療薬第一世代よりも阻害して、強い効き目を持った治療薬だとされています。

しかし、フルタミドやビカルタミド、エンザルタミド、アパルタミドは、その治療薬を継続的に使用し、前立腺癌が残っている場合、ARが変化するとされています。

先述のように、ARを構成するアミノ酸が入れ替わり、ARと男性ホルモンの阻害剤として機能していたこれらの治療薬を利用して、ARが活性化するようになります。

エンザルタミドやアパルタミドなどを治療薬として利用することで、生存率が高くなる、つまりは余命が長くなるとされています。しかし、それらの治療薬もいつまでも効果を発揮することがないというのです。

このように、ARが治療薬に適応して変化してしまっても、ARに対して効果を発揮する治療薬が登場しました。

それが、ダロルタミドです。ダロルタミドは、エンザルタミドにより変異したことが報告されている変化をもつARに対して、阻害剤として働くことが報告されました。

こうして、人類は前立腺癌など、がん(癌)に対して治療戦略を開発してきているのです。

これらの治療薬や他のホルモン生合成阻害剤などに対して、他のさまざまな経路も含めて変化して適応する前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺がん(去勢抵抗性前立腺癌)と呼ばれます。

参考:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33538338

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35200064

https://www.nature.com/articles/modpathol2017158

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30209899

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19359544

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22266222

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26137992

前立腺癌の骨転移とは

がんは、リンパ液により他の臓器などへ運ばれ、そこで増殖するようになることがあります。これを転移と呼び、前立腺癌でもしばしば転移します。

その中でも前立腺癌は、骨に転移し、これを前立腺癌の骨転移と呼びます。

がん細胞を用いる前立腺癌に対する研究者たちは、PC-3細胞などと呼ばれる骨転移した前立腺がん細胞を基に研究を進めることがあります。

「がんを生きるための骨転移リテラシー ~整形外科医から見たがん診療の盲点~」を執筆したとされる橋本伸之さんが日経BPのがんナビにおいて監修または執筆したページでは、前立腺癌は骨に転移しやすいとされています。

また、2018年当時、慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室講師の小坂威雄さんは、前立腺がんの骨転移は去勢抵抗性前立腺がん患者の85~90%に認められる。とされています。

このように、前立腺癌は、ARと男性ホルモンに対して行われる治療戦略の後、前立腺癌の骨転移となるケースもあります。

実際に、PC-3細胞へと話を戻しますが、この細胞は、ARが「ネガティブ」つまりはほとんどないだろう。と考えて論文を記載している研究者もいます。つまりは、ARに頼らない前立腺癌となっているということです。

一方で、PC-3細胞に対して、ARは発現しているとした研究者もいます。この領域では議論が度々起こっています。

しかし、重要なことは前立腺癌の骨転移が、さきほどのARと男性ホルモンに対する阻害剤として働いているとしても、止めることが難しいぐらいに悪化していくということです。

このような場合、他の化学治療薬が使わることがあります。それは、タキソール系の抗がん剤です。

がん細胞は、絶えず細胞を増やすために細胞骨格と呼ばれるタンパク質を多く作ります。この細胞骨格の機能を阻害すると、がん細胞の増殖を防ぐことができるとされています。

そのため、この細胞骨格を作ることを邪魔して、細胞骨格の機能を阻害するタキソール系の抗がん剤が使用されます。

しかし、ARは、前立腺癌に多いことが特徴的ですが、細胞骨格は全身の細胞どこでも重要なタンパク質です。そのため、ARに対する阻害剤よりもタキソール系の治療薬の方が副作用があるとされています。

このようなことにより、前立腺癌の骨転移には、治療薬としてタキソール系の抗がん剤が使用されることがあります。

それでは、どのようにして骨転移前立腺がんを検知するでしょうか。

参考:

https://cellbank.brc.riken.jp/cell_bank/CellInfo/?cellNo=RCB2145&lang=Ja

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/series/bone_meta/201312/533825.html

https://cancer.qlife.jp/prostate/prostate_feature/article2763.html

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16580667

https://cancer.qlife.jp/prostate/prostate_feature/article357.html

PSA値以外の評価方法で骨転移を診断する方法とは

原発性前立腺がん(原発性前立腺癌:去勢抵抗性でないことが多く、転移していない前立腺癌)では、血液中のPSA値を測定することをお話させていただきました。

PSA値の測定による前立腺癌の早期発見により、素早くがんに対応することができるため、生存率が高くなります。また、このような検査により、さまざまな治療法へとつなげることができるため、家族などを守ることにもつながります。

去勢抵抗性前立腺癌を先述しましたが、これはARが少ないにも関わらず、悪化していることがあります。このような場合、PSA値を確認しても判断が難しく、数値のみの情報では生存率が下がることが考えられます。

このような去勢抵抗性前立腺癌の骨転移に対して、検査できる方法があります。それは、放射線を用いた対応の仕方です。

骨シンチグラフィは、全身の骨に転移した前立腺癌を検知することができる検査法です。

一般的に、骨は常に骨自体を壊しては再生を繰り返している(骨造成)とされています。ここで骨が正常な機能を発揮できない症状、つまりは病気となっている場合では、骨に変化が認められます。

骨シンチグラフィはこの骨造成を確認する検査です。そのため、前立腺癌の骨転移に対して検知することができるのです。

前立腺癌の骨転移を早くに確認することができれば、それに対応した治療法を取ることができるため、生存率が高くなる可能性があります。

そのため、病院のお医者さんから、骨シンチグラフィをすすめられた場合、前立腺癌の骨転移を発見するために受け入れることも重要でしょう。

参考:

https://www.hosp.ncgm.go.jp/s037/008/010/scinti_01.html

まとめ

この記事では、前立腺癌に対するARの働きを簡単にご紹介し、その治療法や薬剤に対してご紹介させていただきました。

また、それらの治療薬が使用しても前立腺癌が悪化している場合、他の治療法があることもご紹介しました。

さらに、血液中のPSA値を用いて、前立腺癌を早期発見することで生存率が高くなる可能性を共有し、前立腺癌が前立腺癌の骨転移になる可能性を記載しました。

加えて、放射線を用いた骨シンチグラフィが、前立腺癌の骨転移を発見するために重要であることも述べさせていただきました。

みなさまには、日頃の健康診断などでがんリスクを早期発見し、ご自身の身体を守るだけでなく、家族を守り、がんが発覚した場合は適した治療法によって余命が長くなることを祈っております。

ファクトチェック/監修:

40代 腎専門医

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